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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)11436号 判決

原告 豊国電気工業株式会社

右代表者代表取締役 陣内勝市

右訴訟代理人弁護士 泉芳政

被告 ランドコンストラクションインコーポレーテット

右日本における代表者 アルロス、アール、セジュリー

右訴訟代理人弁護士 伊藤友夫

主文

当裁判所が、昭和四〇年一二月二二日、同年(手ワ)第三四三一号約束手形金請求訴訟事件についてした手形判決を認可する。

異議申立後の訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の求める裁判および事実上の主張は、左記のとおり補充するほか、主文第一項掲記の手形判決における事実摘示欄記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

原告訴訟代理人は、被告の抗弁事実に対し

一、被告が抗弁として述べる事実(主文第一項掲記の手形判決の事実摘示中「被告の抗弁」として記載されている事実中」中第二項、第三項および第五項中、原、被告間の債権、債務が被告主張のように清算され本件約束手形上の権利が消滅したとの点をのぞくその余の事実は認めるが、第四項は否認する。第一項、第六項は争う。

二、本件約束手形は、被告が抗弁事実第三項において主張する金額金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和三九年一二月三一日の約束手形の書替手形であるところ、その発行に際しては、原告、被告間において本件約束手形を被告が主張する輸入資材買付代金の支払保証にあてるのみならず、被告が原告に対して負担する工事代金、立替金等一切の債務の支払に充当する旨の合意が存したのである。

しかして、原告は、被告が抗弁事実第五項で述べるように、硫黄島工事請負代金として金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を受領しているけれども、なお昭和四〇年一〇月二〇日現在で同工事請負代金三〇、四九七、四六〇円、千歳基地工事請負代金六、七一五、〇〇〇円、輸入保証金立替金九一七、〇五二円、輸入資材買付立替金四、一七七、二八六円、千歳基地建設現場事務所、倉庫、仮設材料等購入資金立替金六、〇〇〇、〇〇〇円、以上の合計金四八、三〇六、七九八円の未払債権を有しているのであるから、本件約束手形の原因関係上の債務が消滅した旨の被告の主張は事実に反している。

と述べ、

被告訴訟代理人は、右の原告の主張に対し、

被告は、輸入保証金、輸入資材買付金について原告が主張するような債務は一切負担していない。また千歳基地工事については、被告は訴外若葉建設株式会社と工事請負契約を締結し、同会社が倒産したのちは訴外新高株式会社と工事請負契約を締結したものであり、原告は右両訴外会社の下請会社に過ぎないから、被告が直接原告に対して工事請負代金債務を負担することはあり得ない。

と述べた。

証拠≪省略≫

理由

一、被告は原告主張の本件約束手形を振出したことを否認するので、その点を判断する。

被告が、千歳基地内の米軍施設建設工事に要する輸入資材買付のために訴外株式会社第一銀行に金一八、一五九、二四六円(五〇、四四二、三五米ドル)の信用状を開設したが、被告が外国会社であるため、原告が、被告のために訴外銀行に対して右信用状開設に伴う被告の債務について担保を提供し、その見返保証として被告から金額金三〇、〇〇〇、〇〇〇円、満期昭和三九年一二月三一日、振出地東京都千代田区、支払地東京都港区、支払場所株式会社第一銀行浜松町支店の約束手形一通(乙第一号証)の振出を得ていたことは当事者間に争いのないところ、≪証拠省略≫を総合すると、前記乙第一号証の約束手形の満期が間近に迫った昭和三九年一二月二八日被告会社代表者アルロス、アール、セジュリーと当時の原告会社専務取締役足立光二郎とが被告の東京営業所において、同手形の処理について協議した際、前記輸入資材の買付にかかる信用状の決済は未だ未了であって、原告の訴外第一銀行に対する前記担保義務がその範囲不明確なままで残存しており、一方、原告は、被告から当時下請をしていた米国海軍の硫黄島基地建設工事(このような工事請負契約が締結されていたことは当事者間に争いがない。)の請負代金債権も有し、また、被告と訴外若葉建設株式会社間の請負契約にもとづいて同訴外会社から請負った千歳基地の米軍施設建築工事の一部である電気部門および管工部門の工事をも、同訴外会社の倒産後被告の依頼に基いて続行し、原告が被告に対し直接に請求し得る工事代金債権もあったので、従前どおりの信用状関係担保の見返りとしてのほか、とくに右諸代金等の支払いを確保する意味で、旧手形(乙第一号証)の書替手形形式で被告から原告に宛て新たな約束手形を振り出すこととなり、その席上で、振出日を旧手形の満期日とする原告主張の本件約束手形が原告宛に振り出されたこと(そのうち被告会社代表者の署名が同人の自署によるものであることは当事者間に争いがない。)が認められる。原告が本件において約束手形と主張するものは前出乙第一号証の約束手形の返還を受けるに際して受領証として発行したものである旨の被告会社代表者アルロス、アール、セジュリー尋問の結果は、そのうちの他の供述部分自体によっても、前認定のとおり、前出信用状関係の決済が残存していたことおよびそれにもかかわらず乙第一号証の約束手形が未決済のままで被告会社に返還されたことが認められることからすれば、その返還と引換えに単なる受領証のみが授受されたとする供述部分は経験則に反し、措信し難く、他に右の認定を左右し得る証拠はない。

二、被告は、本件約束手形の振出人欄には被告会社の商号および代表資格の表示がないから、被告会社は本件約束手形上の責任を負わない旨主張し、その代表資格の表示がないことは原告も明らかに争わないけれども、被告会社代表者が個人として原告に手形を振り出す原因関係の存在については何の主張立証もないことおよび前出乙第一号証の約束手形にも被告会社名の記載と代表者による署名とがあるのみでその代表資格の記載がないのにその被告会社振出を被告が認めていることだけから判断しても本件手形の振出人が、アルロス、アール、セジュリー個人ではなく、同人によって代表されている被告であると認めることができるのみならず、被告会社の原告に対する債務の支払のために本件約束手形が振出されたものであることは、さきに認定したとおりであるから本件手形における右署名の形式は、被告会社がこれを振り出したと認定する妨げとなるものではない。

三、そして、本件約束手形が適法に呈示されたが、支払拒絶となった事実関係は≪証拠省略≫によって認められる。

四、本件約束手形の原因関係上の債務がすでに消滅し、存在していない旨の被告の抗弁について考察するのに≪証拠省略≫によると、原告は、昭和四〇年一〇月二〇日現在において、被告会社に対し硫黄島工事請負代金千歳基地工事請負代金、輸入保証金および輸入資材買付金立替金残金、千歳基地建設現場事務所、倉庫、仮設材料等購入資金立替金等以上合計少なくとも金四八、〇〇〇、〇〇〇円余の債権を有していたことが推認され、これらは前示のような本件約束手形が振出されたいきさつにより、本件約束手形の原因関係上の債権と解され、以上の認定を覆えす証拠はない。被告は、本件手形の原因関係である右認定の被告の債務も被告主張の和解により消滅したと主張している。なるほど、昭和四〇年一〇月八日、訴外米国海軍から支払われた硫黄島工事代金の分配に関し、原告、被告間に原告が右代金合計金二七、〇〇八、〇二五円のうち金一〇、〇〇〇、〇〇〇円を受領するとともに被告において金七、〇〇八、〇二五円を受領し、残金一〇、〇〇〇、〇〇〇円については後日原告、被告間において協議のうえ配分する旨の和解契約が成立していたことは当事者間に争いがないけれども、成立に争いのない乙第三号証(和解契約書)、原告会社代表者陣内勝市尋問の結果によると、右和解は、前示米国海軍から支払われるべき工事代金のうちから被告において原告に対して支払うべき金額の範囲について成立したにとどまり、右の金額を超える原告、被告間の債権、債務を前記のように後日原告、被告において配分を協議すべきものとした金一〇、〇〇〇、〇〇〇円の範囲に限った趣旨ではなかったことが認められる(≪証拠判断省略≫)のであるから、右の認定の和解により原告が現実に配分を受けた一〇、〇〇〇、〇〇〇円を控除しても本件手形の原因関係の被告の債務は、なお、本件手形金額を上回るものが残存しているわけである。

五、してみると、被告の抗弁は理由がないから、被告は原告に対し本件約束手形金とこれに対する満期以降支払済みにいたるまでの手形法所定年六分の割合による利息金とを支払うべき義務あるものというべく、その履行を求める原告の請求は理由があり、認容すべきである。

よってこれと符合する主文記載の手形判決を認可し、異議申立後の訴訟費用の負担について民事訴訟法第四五八条、同法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畔上英治 裁判官 伊藤豊治 守屋克彦)

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